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高知地方裁判所 昭和57年(ワ)530号 判決 1985年11月21日

原告

株式会社ニューまごころチェーン

右訴訟代理人弁護士

藤原充子

藤原周

高木国雄

被告

福重忠良

福重裕子

右両名訴訟代理人弁護士

下元敏晴

主文

一  被告福重裕子は原告に対し、金六七二万円及びこれに対する昭和五九年五月一一日以降支払済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用中、原告に生じた分の二分の一は被告福重裕子の負担とし、被告福重忠良に生じた分は原告の負担とし、その余は各自の負担とする。

四  この判決の第一項は仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、昭和六二年一月末日まで別紙一の目録(一)記載の場所で、同年四月九日まで別紙一の目録(二)記載の場所で、名称の如何を問わず、別紙一の目録(三)記載の米飯弁当並びに寿司弁当を自ら製造販売し、または第三者をして右営業をさせてはならない。

2  被告らは原告に対し、各自金六七二万円及びこれに対する昭和五九年五月一一日以降支払済まで年六分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言を求める。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求める。

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は、品質が均一、良質、廉価で、かつ即座に揃う多種多様な弁当類の店頭販売店の育成と、指導、管理を目的とする会社であり、その管理下にある全国的規模で組織された販売店の厨房セットの設置、器具の特注、食料仕入れ及び宣伝を、独特で機能的な方法により大量画一的にこなすフランチャイズシステムをとる企業である。

2  被告福重忠良(以下「被告忠良」という)、被告福重裕子(以下「被告裕子」という)は、原告との間で昭和五七年二月一日ころ別紙二記載の内容の、同年四月一〇日ころ別紙三記載の内容の、各合意をした(以下右各合意を「本件契約」という)。

3  被告らは、本件契約に基づき、原告傘下の店舗として、昭和五七年四月一〇日ころ別紙一の目録(一)記載の建物で後免店(以下「後免店」という)を、同月二〇日ころ別紙一の目録(二)記載の建物で旭店(以下「旭店」という)を、各開店した。

4(一)  しかるに、被告らは昭和五七年七月分以降の本件契約に基づく約定のロイヤリティを支払わないのみならず、そのころから本件契約条項に違反し、原告と同一、同種の弁当販売業で、全国的な組織を持ち、原告と対立競合関係にある「ほつかほつか亭」の傘下に入り、訴外株式会社ほつかほつか亭高知県地区本部と加盟契約を結んだ。そして、同時に原告の「こがねちやん弁当のニューまごころチェーン」の看板を外し、訴外会社の「作りたてのお弁当ほつかほつか亭」「オープンキッチン」「全国チェーンごめん店」及び「あさひ店」の広告看板に取替えてしまつた。

(二)  よつて、原告は昭和五七年七月二九日付内容証明郵便でもつて被告らに対し右行為を撤回するよう通知し、右内容証明郵便はそのころ被告ら方に到達した。しかるに、被告らは右文書到達後三〇日以内に前記行為を改めなかつたので、原告は昭和五八年六月二三日の本件第五回口頭弁論期日において、被告らに対し本件契約を解除する旨の意思表示をした。

5(一)  更に、被告裕子は、昭和五八年八月三〇日ころ、同被告名義で営業していた旭店を訴外黒岩忠衛に、原告の文書による同意を得ずに売却または譲渡し、次いで同月三一日ころ、同被告は、同被告名義で営業していた後免店を被告忠良の営業名義とし、次いで、翌日、被告忠良は同被告が代表取締役に就任している株式会社福重設計事務所に、いずれも原告の文書による同意を得ず、売却または譲渡した。

(二)  被告らの右店舗譲渡行為は、原告の営業組織の根幹をゆるがし、原告の営業に対し甚大な障害を与えるものであり、原告との契約関係を根本的に破壊する背信行為である。したがつて、被告らは右被告らの違法行為により原告が蒙つた損害を賠償すべき義務を負う。

(三)  なお、原告は、被告らに対し、前記各店舗譲渡行為があつた後、右行為を撤回するよう文書で通知し、右文書はそのころ被告ら方に到達したが、被告らは三〇日内に右行為を改めなかつたので、原告は昭和五九年五月一〇日被告訴訟代理人に送達された準備書面でもつて、本件契約を解除する意思表示をした。

6  よつて、

(一) 前3(一)記載のとおり被告らが訴外会社と加盟契約を結ぶ等して別紙一の目録(三)記載の店頭弁当販売業を営んでいる行為は、本件契約に違反するものであるから、原告は、被告らが原告と同一種類の右店頭弁当販売業を営むことを禁止することを求める。

(二) 本件契約により被告らは原告に対し契約後五年間にわたり、一店舗につき毎月六万円宛のロイヤリティを支払うべき義務があり、前記本件契約解除後は右ロイヤリティ相当の損害金を支払うべき義務があるから、原告は被告らに対し、

(1) 後免店については昭和五七年七月以降五五か月分、金三三〇万円

(2) 旭店については昭和五七年七月以降五七か月分、金三四二万円

以上合計六七二万円及びこれに対する右請求を記載した準備書面送達による請求の翌日である昭和五九年五月二日以降支払済に至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金を被告らが各自支払うことを求める。

二  請求の原因に対する認否

1  請求の原因1は認める。

2  同2のうち被告忠良に関する部分は否認する。被告裕子に関する部分は認める。すなわち原告主張の合意は、原告と被告裕子との間でのみ成立したものであり、右合意に基づいて原告に対し義務を負担していたのも被告裕子のみである。

3  同3のうち、被告裕子が原告主張の店舗を開店したことは認める。その余は否認する。

4  同4(一)のうち被告裕子に関する部分は認める。同4のその余は否認する。

5  同5(一)のうち、旭店についての主張事実は否認する。旭店については、被告裕子は、営業を廃止して右店舗を店舗所有者黒岩忠衛に返還し、かつ同人に備品等一切を売却したものであり、営業譲渡をしたものではない。

同5(一)のうち、後免店についての主張は認める。

同5(二)は否認する。

三  抗弁

1(一)(1) 原告と被告裕子間の本件契約条項八条二項は「統括本部(原告のことである)は、フランチャイジーの経営する店舗がより一層の販売促進が図れ、また、コストダウンによつて利益向上が図れるようにする為に、原材料の供給業者を指定する。これは、メニュー製品の品質向上と信用維持のための統括本部の統一基本政策である故、フランチャイジーは、これを厳守し、指定業者以外からは仕入れてはならない」旨の規定があり、原告の高知事業本部で、同本部の責任者でもある山本高司(以下「山本」という)も被告裕子に対し、この点に関し違約がないよう強く注意していた。

(2) 右(一)記載の規定の趣旨からすると、原告において、本来指定業者は他の材料供給業者よりも低廉な価額で供給する業者を指定すべきであるにもかかわらず、現実には同一品質の材料につき指定業者よりもはるかに低廉な価格で供給する業者が他に多数存在し、山本もこれらの事情を熟知していたうえ、被告裕子が山本に右の事情を伝えても、山本は「本部の指導に従え」というのみで、供給業者の検討をする様子は一切なかつた。

(二)(1) 原告と被告裕子間の本件契約条項三条一項には「店舗設置場所は、フランチャイジーの選定した場所を原則とするが、フランチャイジーの要請によつて、統括本部(又は地区事業本部)は、その立地及び市場調査を行い、その調査結果をフランチャイジーに報告し、両者協議のもとに、店舗設定決定を行う」「フランチャイジーの選定した場所が、設置場所として統括本部(又は地区事業本部)の調査結果によつて適当と認められない場合は、統括本部(又は地区事業本部)は、フランチャイジーが他の店舗設置場所を選定完了するまで、協力、援助を行う」との規定がある。

(2) フランチャイジーは、一定商圏が確保されることを前提としてフランチャイジー契約を締結するのであつて、ロイヤリティの多くの部分は、このような店舗営業を行う権利に対する対価として支払われるものである。

(3) しかるに、山本はフランチャイジーの意向、希望を無視して増店を強行した。この山本の方針に不安、不満を持つ被告裕子らのフランチャイジーが、山本に対し少なくとも高知地区における増店計画は示してもらいたいとの申し入れをしたが、山本は右の申し入れについても一切答えず「本部の方針に従えないのであればやめてもらう」というのみであつた。

(4) 被告裕子は、山本に対し昭和五七年三月ころから、三号店として、山田地区に店舗を開設したい旨申込んでいたが、被告裕子の右意向は無視され、同年六月に至り、被告裕子に何らの相談もなされないまま、山本は同地区に第三者をフランチャイジーとして、店舗を開設させた。

(5) 山本のこれらの行為が前(1)記載の合意の趣旨に反することは明らかである。

(三)(1) 原告と被告裕子間の本件契約条項七条一項には「こがねちやんニューまごころ製品の高い評判及び信用を保護し、この契約に基づく経営基準を維持するために、フランチャイジーは、統括本部の作成した調理マニュアルに従つて、高品質であり、均一である製品の製造を店舗にて実施するものとする」との規定がある。

(2) 弁当業において、高い評判と信用を保護し、高品質の弁当を供給するためには、まず衛生面での安全性が確保されなければならないのに、原告は、これらの指導を一切なさず、食品業者として不安を持つ被告裕子が山本に対し適切な指導を求めても、同人は「本部のいうとおりにすれば良い」というのみで衛生面の指導には触れようともせず、被告裕子の要望に応じようとしなかつた。

それのみか、高知事業本部の指導員は、被告裕子の店舗に入つても黒いサングラスをかけたままでいたり、つまようじを口にくわえて来客に接する等、衛生面の配慮はもとより、弁当業に要する基本的な資質にも欠けると思われる指導員であつた。このことも、原告の衛生指導につき多大の不安をいだかすものであつた。

(3) また、原告は、経理面では、どんぶり勘定的なやり方で、ロス計算、商品棚卸等の指導もなく、経理面での指導は全くなされていなかつたため、計画的な事業の経営は到底できない状態であつた。

(四) 被告裕子は、右(一)ないし(三)記載のとおり、原告の経営方針、指導方法等について不安、不満を持ち、その都度山本らに伝えていたにもかかわらず、山本は「本部のいうとおりにすればよい」とか、「自分のいうとおりになる人がいい、文句のある人はやめてもらう」との応答をするだけであつたので、被告裕子はたまりかねて上京して原告代表者にも改善方を申出たが、原告は何らの改善の措置もとらなかつた。

更に、山本は、このような被告裕子の再三の申出に対し、昭和五七年三月末には「やめてもらう」と明言し、同年四月末にも同様の応対をし、同年六月には前(二)(4)記載のとおり被告裕子の意向を全く無視して第三者に店舗を開設させるに至り、原告と被告裕子の契約当事者としての信頼関係は完全に破壊されるに至つた。

2 そこで、被告裕子は昭和五七年六月二五日、本件契約を解約する旨の原告代表者と山本宛の書面を高知事業本部に持参して山本に交付し、山本は右解約の申入れを承諾して右書面を受けとつた。そして、被告裕子は山本との間で原告らに支払うべき金員も精算した。よつて、本件契約は右同日合意解約された。

3 仮に右合意解約が認められないとしても、前1の(一)ないし(四)記載のとおり、原告は、本件契約に定める原告の債務を履行せず、かつ被告裕子からの債務の本旨に従つた履行を求める催告がなされたにもかかわらずその履行をなさなかつたものであるところ、前記被告裕子の解約の申入れは、同時に右原告の債務不履行に基づく解除の意思表示としての面も有するから、本件契約は右解除により終了した。

4 請求の原因に対する認否5記載のとおり、被告裕子は旭店の営業を廃止し、請求の原因5(一)記載のとおり被告裕子は後免店を他に譲渡した。なお、原告と被告裕子間の本件契約には契約終了後の競業避止義務の定めはない。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1ないし3は否認する。

2  同4の旭店についての営業廃止等の主張は否認する。右については請求の原因5(一)記載のとおりである。同4の後免店についての事実は認める。ただし、被告裕子から被告忠良への譲渡は単に名義上なされたものにすぎない。

第三  証拠<省略>

理由

一請求の原因1並びに同2のうちの被告裕子に関する部分についてはいずれも当事者間に争いがない。

二そこで、本件契約の原告の相手方は被告忠良であるとの原告の主張について検討するに、<証拠>を総合すると、本件契約締結に至るまでの原告側との交渉は全部被告忠良がしたこと、後免店で使用する厨房機器を原告と代表者を同じくする株式会社ダイヤ厨房から買受けたのは被告忠良であつたこと、原告は右厨房機器が原告傘下の店舗においてその販売製品の品質の良好性を維持する重要な機材であると考えていること、甲第一号証の契約書の被告裕子名義の署名は被告忠良がしたものであること、被告裕子は本件契約締結当時生後一年に満たない幼児を有し、その世話のために店頭弁当販売営業活動を行うことに適さない状態にあつたことが認められ、更にこのことと、弁論の全趣旨により認められるところの後免店、旭店は被告忠良名義とし、次いで後免店は被告忠良が代表取締役に就任している株式会社福重設計事務所に譲渡されていることを併せ考えれば、後免店はもとより旭店についても被告忠良が右各店舗経営の重要な部分を事実上管理していたものと推認される。加えて、証人山本高司(第一回)は、被告忠良が本件契約締結の申込みをし、かつ、同人が自分で本件契約に基づき店頭弁当販売業を営む旨述べたと供述する。

しかしながら、他方、<証拠>によれば、本件契約の原告の相手方は被告裕子のみがなつていることが認められること、更に被告忠良本人尋問の結果によれば、交渉の過程において、本件契約条項中の詳しい内容、特に原告の相手方となる者の不利益な部分についての詳細な説明はなされなかつたこと、<証拠>の契約書に被告忠良が契約当事者または保証人になつていないことについて原告から何ら異議がでなかつたことが認められること、被告忠良、同裕子各本人尋問の結果によれば、被告忠良は設計事務所を経営して多忙であり、妻の裕子が店頭弁当販売業を営むことを希望したので、被告忠良において本件契約締結の交渉をしたこと、被告裕子から本件契約締結の代理権も与えられていたことが認められること、なお、被告忠良において、本件契約に定める原告に対する義務を負担することを承諾したことを認めるに足る確たる証拠は存在しないことの諸点を総合勘案すれば、前記山本証人の証言は直ちに採用できず、更に前記認定の各事実をもつてしてはまだ被告忠良が本件契約の原告の相手方であつたと認めることは難しく、他に右原告の前記主張事実を認めるに足る証拠はない。

三被告裕子について、請求の原因3、4(一)については当事者間に争いがなく、原告が本件第五回口頭弁論期日において本件契約を解除する旨の意思表示をしたことは本件記録上明らかである。

ところで、本件契約条項一五条一項によれば、原告が被告裕子の債務不履行を理由として本件契約を解除する場合には、文書でもつて違約行為の中止等を求める通告をし、三〇日内に右違約行為が改められなかつた場合にはじめて本件契約を終了させることができるとされているところ、<証拠>によれば、原告は被告忠良に対して、昭和五七年七月三〇日到着の内容証明郵便でもつて、被告忠良が原告と対立関係にある「ほつかほつか亭」の傘下加盟店になる等したことについて違約行為の中止、撤回を求める通知をしていることは認められるが、原告が被告裕子に対し、特に右同趣旨の通知をしたことを認めるに足る確たる証拠はない。しかしながら、前記のとおり被告忠良が本件契約締結の交渉をし、かつ後免店、旭店の経営の重要点を事実上管理していたこと、被告両名は夫婦であること、右甲第六号証には「契約名義は被告裕子名義をとつているが、実際は被告忠良のものである」旨の記載があり、このことは被告裕子に対する通知の趣旨も含むと解されることを総合すると、右内容証明郵便は被告裕子に対する通知の趣旨を含み、かつ被告忠良は被告裕子のために被告忠良名義で原告から右文書を受領する権限を有していたと認められるから、右の原告がした通告は被告裕子に対しても効力を生ずるものと考えられる。

そうすると、原告がなした前記の本件契約解除の意思表示は有効とみられ、右解除によつて本件契約は終了したものと認められる。

四本件契約は右解除の前に合意解約された旨の被告らの主張に沿う<証拠>は、<証拠>に照らし直ちに採用できず、他に右主張事実を認めるに足る証拠はない。

五本件契約条項中に被告らが抗弁1で主張するが如き規定があることは<証拠>により明らかである。そして、被告裕子本人は、原告において右約定に違反し、原告提供の食材は他の食材提供業者が販売する食材より高価であり、原告は被告らの意向を無視して傘下加盟店を増加させ被告裕子の商圏を狭めて被告裕子の営業収益を低下させるおそれがある行為をし、かつ、被告裕子が山田地区に店舗を開設したい旨申込んだがこれを無視して第三者に店舗の開設をさせ、原告の高知事業本部の指導員は、被告裕子の店舗へ黒いサングラスをかけたまま入つたり、つまようじを口にくわえて来客と接する等し、衛生面、経理面でも原告から適切な指導は全くなかつたこと、そのためたまりかねて、原告の高知事業本部長の山本に度々改善方の申入れをし、更に原告代表者にまで改善方を申し入れたが、右申し入れは全く受け入れられなかつた旨供述する。しかしながら、原告と被告裕子間の本件契約は原告のフランチャイズシステムに被告裕子が加入する契約であり、右システムは、原告の設定、開発した統一商標のもとに統一した商品を顧客に販売することを目的とするものであつて、商標、商品の統一、全国的な画一宣伝を中心とし、更に食材、器材の一括供給、営業の指導等がなされることとなつていて、原告と被告裕子とはそれぞれの役割に応じた権利、義務を負担するが、<証拠>から明らかな如く、フランチャイズシステム加盟店である被告らの義務は明確に記載されているものの、原告の義務は抽象的に規定されているものが殆んどであつて、原告のいかなる所為が右契約に定める原告の義務に違反するかは即断できない場合が多く、結局、契約上明確な原告の義務に違反した場合のほかは原告の義務違反となるのは、原告がなした具体的な作為、不作為が、契約条項に照らし、契約当事者間の信頼関係を破壊するとみられる程度のものとみられる場合であると考えるべきところ、前記被告裕子本人の供述するところでは、原告に右の如き義務違反があつたとは即断し難いのみならず、右供述は<証拠>に照らし直ちに採用できないところである。

そうすると、更にその余の点について判断するまでもなく被告裕子の解除の主張は理由がない。

六被告裕子は、本件契約の有効期間は五年であるが、契約終了後の競業避止義務は本件契約に定められていない旨主張する。しかしながら本件契約条項二条に「この契約で有する各権利の有効期間は当該契約日より五年間とする」との規定がなされていることについて当事者間に争いがない。もつとも、同一三条二項には「本契約期間中又は更新期間中に限り競業避止義務がある」とする規定がある。右両規定の関係をいかに解するかは問題があるが、条項二条に特に「権利の有効期間」という文言を使用していること、一三条二項は五年間の契約期間がある場合のみを前提とした規定であり、契約の終了は予定していない規定であるとみられること、原告の営業は全国的な組織で統一的商品を製造販売することを重点とするものであり、かつ、その営業は容易に類似製品を製造販売できるものであること、被告裕子としても、五年間同種営業の避止義務を負うことは、これに同意して契約をしたものである以上、やむを得ないところであり、特に不公平、不相当であるとは断じ難いことを総合考慮すれば、右条項一三条二項は同二条により補われ、契約終了の有無を問わず当該契約日後五年間の競業避止義務があるものと定めたというべきである。

ところで、<証拠>によれば、被告裕子は、旭店は訴外黒岩忠衛に譲渡したことが認められ、後免店は、被告忠良を経て株式会社福重設計事務所に譲渡したことについて当事者間に争いがない。しかし、被告裕子が右黒岩忠衛の営業を中止させることができることを認めるに足る証拠はなく、<証拠>によれば株式会社福重設計事務所の代表取締役は被告忠良であり、被告裕子もその取締役となつていることが認められるが、このことから被告裕子が右会社が経営する後免店の営業を中止させることができるとまでは即断できず、他に被告裕子が後免店の営業を中止させることができることを認めるに足る証拠はない。また、旭店、後免店が前記競業避止義務がある期間内に被告裕子に帰属する蓋然性があると認めるに足る証拠はない。そうすると、被告裕子の原告に対する競業避止義務は履行不能になつているものといわざるを得ず、その義務の性質に鑑み、もはや同被告には金銭賠償を求めることしか許されないと考えられる。

七原告主張の準備書面が被告ら訴訟代理人に昭和五九年五月一〇日送達されたことは本件記録上明らかである。

八以上の次第で、原告の本訴請求中、被告裕子に対し後免店について昭和五五年七月以降五五か月分の三三〇万円、旭店について同年同月以降五七か月分の三四二万円、以上合計六七二万円の約定のロイヤリティ相当損害金とこれに対する前記準備書面送達による請求の翌日である昭和五九年五月一一日以降支払済まで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は正当としてこれを認容し、同被告に対するその余の請求及び被告忠良に対する請求は失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条本文を、仮執行の宣言について同法一九六条をそれぞれ適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官金子 與)

別紙一

目  録(一)

南国市大埇字祇園田甲一二一五番地一一、甲一二一五番地一一地先

家屋番号 甲三一三番

一 木造瓦葺二階建居宅一棟

床面積

一階 五八・八四平方メートル

二階 二八・三三平方メートル

目  録(二)

高知市旭天神町字柳瀬一〇七番地五、一〇七番地四

家屋番号 一〇七番五

一 木造スレート・亜鉛メツキ鋼板葺二階建店舗・居宅一棟

床面積

一階 七八・一三平方メートル

二階 四四・九〇平方メートル

目  録(三)

次の要件を満たす弁当

一 容器の種類 発泡スチロール製

二 内容

1 主食 顧客に手渡される時点であつたかい米飯

2 副食 予め店頭に表示されるメニュー(献立)にしたがつて容器に詰め合わされるもので種類を問わない

3 寿司弁当

三 調理及び容器詰めの場所

別紙目録(一)(二)記載の場所内

別紙二

一 原告は、被告らに「こがねちやんニューまごころ」の文字、図形商標の使用を許諾し、チェーン店加盟を認める。

二 被告らは原告に対し加盟金五〇万円を支払い(契約条項一条二項)、また、ロイヤリティーとして一店につき一か月六万円を当該月末までに支払う(同一条一項)。

三 原告は被告らに店舗設置、設計、調理、営業、原材料の仕入れ等全般にわたつて独特のノウハウに従つて築き上げた指導と、原告のノウハウに基づいて開発設計した独自のユニットシステムの厨房設備の提供をなし、被告らは設置店舗の外装、諸設備及び看板について、補修を万全にし、清潔で魅力的な外観を維持し、良好な営業状態を保持しなければならない(同四条)。

四 被告らは、「こがねちやんニューまごころ」製品の品質が維持継続できるために、原告の指定した原材料を使用しなければならず、調理の当該マニュアルに基づいて製品が製造販売されているかについて点検を受け、それに関する報告書提出義務を負う。かつ、本件契約に基づいて営業権を与えられた店舗において、原告の承認を受けていない、いかなる品目も販売しないことを同意した(同八条)。

五 被告らは、いかなる状況下にあつても、原告より伝達されている機密情報の一切について、こがねちやんニューまごころフランチャイズシステムの最善の利益となる方法以外で利用したり、または関係者以外に開示したりしてはならない(同一三条一項)。

六 本契約期間中は、被告らは直接間接を問わず、原告の文書による同意を得ずして、同種のファーストフーズ事業(店頭弁当食品販売業)に従事してはならないし、また当該事業の利権所有を一切してはならない(同一三条二項)。

七 被告らは、本件契約について、原告の前もつての文書による同意を得ずに、他に売却、譲渡もしくは移転することはできない(同一四条)。

八 原告は、被告らが本件契約を履行せず、原告の文書による通知を受取つて三〇日以内にその不履行を改めなかつた場合には、契約を解除できる(同一五条一項)

九 本契約終了にあたつては、被告らはこがねちやんニューまごころのチェーン店の営業権はなくなり、被告らが原告に対し支払義務ある一切の金額を直ちに支払わなければならない(同一五条二項)。

一〇 本契約で有する各権利の有効期間は当該契約日より五年間とする(同二条)。

別紙三

一 被告らは加盟金としては、追加店として金三〇万円を支払い、ロイヤリティとして一か月六万円を当該月末までに支払う。

二 右以外の契約内容については別紙二の一ないし一〇に同じ。

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